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札幌高等裁判所 昭和51年(ラ)37号 決定 1977年1月10日

抗告人

有限会社関矢建設

右代表者

関矢保

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及びその理由は、別紙一記載のとおりである。

二本件競売事件記録によれば、債権者角谷正賢の根抵当権実行のための競売申立による旭川地方裁判所昭和五〇年(ク)第三九号事件である本件競売事件につき、原審競亮裁判所は、昭和五〇年七月二八日別紙二記載不動産(以下、本件競売物件という。)についての競売開始決定をしたこと、昭和五一年八月六日付で競売期日を昭和五一年九月八日午前一〇時、最低競売価額を金三二一万三〇〇〇円、競落期日を同年九月一〇日午前一〇時とする競売期日の公告をしたこと、昭和五一年九月八日午前一〇時の競売期日において債権者角谷正賢は本件競売物件について競買価額を金七〇〇万円とする競買の申出をして最高価競買人となつたこと、原審競売裁判所は昭和五一年九月一〇日午前一〇時の競落期日に右角谷正賢に対し競落価格を金七〇〇万円として本件競売物件の競落を許可する旨の決定を言渡したことが認められる。

(一)  抗告理由一について

抗告人は、前示の昭和五一年九月八日午前一〇時の競売期日が債務者たる抗告人にはなんら通知されずに実施されたから、本件競売手続は違法であると主張する。

案ずるに、本件競売事件記録中の「競売期日等経過表」、「利害関係人一覧表」、「受払計算書」の記載によれば、原審競売裁判所は、抗告人に対し、前示競売期日の通知を昭和五一年八月六日普通郵便で発信したことが認められる(昭和四六年法律第九九号による改正後の競売法第二七条二項は利害関係人に対する競売期日の通知につき発信主義を採ることにした。)。

よつて前記抗告理由は、爾余の判断をまつまでもなく、失当である。

(二)  抗告理由二について

1  抗告人は、前示競売期日の公告は条件を欠くものであつたとし、前示競売公告には、競売法第三二条二項によつて同法による競売手続に準用になる民事訴訟法第六八〇条、第六八一条、第六七二条第五号所定の事由があつたかの如く主張する。よつて案ずるに、本件競売事件記録によれば、前示競売期日の公告には、本件競売物件につき「賃借権等不明」と記載されていたことが認められる。而して右記録によれば、前示競売期日公告に右のような記載がなされたのは、原審競売裁判所が本件競売申立人の賃貸借取調申請により旭川地方裁判所執行官に対して、本件競売物件について賃貸借の有無等の取調を命じ、この命を受けた旭川地方裁判所執行官東谷順一が昭和五〇年八月二五日から昭和五一年一月一三日までの間前後七回に亘り本件競売物件の所有者である抗告人の本店(兼抗告人代表者代表取締役関矢保の住所)に赴き、更に同年一月二七日には本件競売物件たる建物にも臨んだが、抗告人代表者ないし関係者に一度も会うことができず、本件競売物件についての賃貸借の有無等を取調べることができなかつたため、昭和五一年二月二日に原審競売裁判所に対し賃貸借取調報告書によつて、本件競売物件については賃貸借の有無不明なる旨の報告をしたことによるものであつたと認められる。

ところで、競売法による競売手続において同法第二九条によつて準用される民事訴訟法第六五八条第三号の規定が競売期日の公告に賃貸借に関する事項を具備すべきものとしている法意は、競買しようとする者が競買申出価額を決定し、或るいは競落後引受けなければならぬ賃貸借の存在ないしその内容を予知するための一つの資料を公告し、以つてその者が競落人となつた暁、不測の損害を被ることがないようにすることに在るのであるが、しかしこのことは競売物件についての賃貸借に関する事項が明らかでないときは競売期日の公告をすることができないことまでも意味するものではないから、競亮裁判所は、競売申立人が賃貸借関係の証明ができないため執行官にその取調べをなさしめた場合において、執行官の取調が不能に終り、賃貸借の有無が不明であるときは、競売期日公告においてその旨を記載すれば足るものと解するを相当とする。そうだとすると、本件競売手続において、執行官の前示の取調結果に基づき、前示競売期日の公告に「賃借権等不明」と記載したのは、適法なものということができる。なお本件競売事件記録によれば、本件競売期日公告には、競売法第二九条によつて同法による競売手続における競売期日公告に準用される民事訴訟法第六五八条各号所定のその他の事項もすべて具備していたことが認められ、従つて本件競売期日公告は、法律上規定した方法によつてなされたものと認められる。

よつて前記抗告理由は失当である。

2  次に抗告人は、前示の競売期日の公告は、旭川地方裁判所の掲示板に掲示されなかつたと主張するが、前掲「競売期日等経過表」の記載によれば、原審競売裁判所は、昭和五一年八月六日旭川地方裁判所の掲示板に右公告をなしたことが認められる。

よつて右抗告理由は失当である。

3  更に抗告人は、本件最低競売価額が不合理な評価方法によるもので、異常に低い価額であつたので、抗告人は原審競売裁判所に対し再鑑定の申請をしたが、原審競売裁判所がこれを採用しなかつたのは違法であると主張する。

案ずるに、本件競売事件記録によれば、原審競売裁判所は、鑑定人井本貫次による本件競売物件の評価額である金三二一万二七五〇円を斟酌して前示競売期日のために本件競売物件の最低競売価額を、右評価額よりも若干高い金三二一万三〇〇〇円と定めたものであることが認められ、右鑑定人による評価が評価というに値しないほどに不合理な方法によつたものとは認められないから、原審競売裁判所が右評価額を斟酌して前示のように最低競売価額を定めたのは適法であり、而して右最低競売価額が適法に定められたものである以上、それが異常に低い旨の主張ないしに原審競売裁判所は抗告人の再鑑定申請を容れて本件競売物件の再鑑定をなさしめるべきであつた旨の主張は、いずれも競売法第三二条第二項によつて同法による競売手続に準用される民事訴訟法第六八〇条、第六八一条、第六七二条所定のいずれの事由にも当らない。

よつて前記抗告理由は失当である。

(三)  その他本件競売事件記録を精査しても、本件競落許可決定には、これを取消すべき違法の点は発見できない。

三よつて本件抗告は理由がないから、民事訴訟法第四一四条、第三八四条一項に則り、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別紙一、二<省略>

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